前回の記事で「近年の闘技場では急襲・雄叫びダメージが増え、不利な側の逆転がしやすくなった」と書きました。これはプレイングだけでなくマリガンにも影響する話です。今回はこの影響を踏まえながら、最近の闘技場におけるマリガンの戦術について整理してみます。
(前回の記事を載せますが、今回とは独立した内容なので必ずしも読まなくて大丈夫です。上の__線部だけ頭に入れておいていただければ。)
逆転がしやすい環境の戦い方
環境が変わっても、ベースとなる方針は従来と同じです。
ただし、大まかな方針は変わらない一方で、感覚をちょっと現代向けにアレンジするとより勝てるようになります。
急襲、雄叫びダメージなどによる挽回がしやすい現代では、序盤・中盤戦の重要度が下がることになります。こうした理由から、軽いミニオンの優先度もちょっとだけ下げています。
さすがに2/2/3,3/3/4などのいわゆる「標準スタッツ」(aコストで合計能力値が2a+1以上のもの)は残した方がいいでしょう。しかし、弱い2マナ、弱い3マナ(効果に期待できない2/2/2や3/3/3など)は戻すことが増えました。
2ターン目には雄叫びのいい対象がいることは稀です。戻しましょう。
2/2/2といえども、こういうのはぜひ残したいです。2ターン目のボードはちょっぴり弱くなりますが、引いた1マナ呪文で取り返せる可能性が高い強カード。
序盤の優先度がちょっと下がった一方で、何としてでも使いたいパワーカードは2~3ターン目の動きでなくとも残しやすくなりました。4マナはそこそこ強ければ残す(「穴掘りスコーピッド」あたりが当落線でしょうか)、5マナはかなり強いか手札に2~4の動きがあれば残す形です。
それより重いカードや強化、除去でもトップクラスに強ければ残すことがあります。近年は凄まじいパワーを持つ重いカードが増え、キープを検討する機会がそれなりにあります。ただし、いずれも対戦相手や自分のデッキを踏まえた総合的な判断が問われ、考えなしにキープしていいものではありません。
キープを考える重いカード、除去の一例。他にもレジェンドには規格外のパワーを持つカードが多い。
ということで、以前からの変化を赤字にしてまとめると、
というところです。難しいのは「非常に強いカード」のキープですね。補足していきます。
他の手札・デッキを考える
「じゃあ、どんな場合に強いカードをキープできるの?」
という疑問が浮かぶと思います。難しめの判断になりますが、まず考えたいのは他の手札とデッキです。
2,3ターン目の動きが既に手札にある場合は重くて強いカードのキープがしやすいです。追加で2,3を引いたとしても大した効果はなく、戻すメリットが限られるためです。4ターン目までのドローで何かしら4ターン目の動きは手に入ることが多いため、それよりも中盤以降の強い動きを確保するメリットが大きいです。
強いカードを戻しても欲しいものが引けなさそうな場合も、キープを考えます。例えば
・3マナミニオンが既に手札にあり、かつ
・デッキに2マナミニオンが2枚しかない
場合、確かに2マナミニオンは欲しいですが戻しても引き直せる確率はとても低いです。それに期待するよりは、後々の強い動きを確定させるのがよいと思います。
カードパワーのインフレに注意
近年はカードパワーのインフレが進んでいるため、従来「非常に強いカード」とされたものがそれほどでもなくなっていることがあります。
昔は「ずる剣」なんて呼ばれてました
かつて最強クラスであった「トゥルーシルバー・チャンピオン」はその典型で、現代ではめちゃくちゃ強いカードではなくなりました。キープできることはありますが、昔のように無条件ではありません。
以下はHSReplay.netという統計サイトのデータです。パラディンの主要カードの勝率ランキングを出しました。
▼パラディンのクラスカードデッキ勝率。(HSReplay.net /7月14日時点/レジェンド除く。)
かつて最強クラスであった「トゥルーシルバー・チャンピオン」より勝率の高い(≒強い)カードが10枚も20枚もあるのが今の環境です。絶対にキープしたいカードというほどではなくなりました。
パワーカードの特性
上の勝率表を例にとると、上位5枚は原則として残していいかなと思います。(「パーティ募集!!」は強いですがかなり重いので他のカードと対戦相手次第で戻すかも)。次ぐカード群の中では序盤に使える「アンダーライトの釣り竿」や「有徳の守護者」などは当然キープ。
「権威の祝福」はそれらと勝率が同じくらいですが、残すかは若干怪しいです。使うためには自分の場にミニオンがいなければならず、手札枠の1枚を序盤ではない動きに割いてしまうとそれが叶わなくなる可能性があります。
とはいえ異様なパワーカードなので握っておきたいのも確かです。2,3マナが両方持てていればキープしていいと思います。
…こんな感じでカードの強さ、コストのみならず、特性も考えながら判断していくことになります。重いパワーカードをキープすると、序盤のミニオンを引くチャンスが減ります。そのためパワーカードの中でも「有利な時に強いカード」や「コストが高い(6+)カード」はキープするリスクが高く、戻す寄りの判断をすることが多いです。
総じて、重いパワーカードのキープ判断には、そのカードがなんで強いのか、どのくらい強いのか、どういった場面で活躍するのかの理解が必要です。確かに実力が出て面白いところですが、難しい判断でもあります。
まずは「1,2を争うほど強いカード」(ドルイドで言えば「草攻凶花」など)で試し、徐々にラインを下げていくのがおすすめです。
書いてあることがおかしい
理論としてはこんなところです。
パワーカードのキープをはじめとして、マリガンは「場合による」判断が非常に多いため、実例をいくつか載せて説明していきます。
実践例
実戦であった初手と、参考程度に私の判断を載せます。
けっこうきわどい場合の判断を載せているので、私の判断が必ずしも最善手とは言い切れません。一緒に考えてみてください。
実践例① ハンター
デッキは以下のものです。
実践例①-1
- 手番:先手
- 相手:プリースト
- 初手:
(筆者が考えるマリガン:クリックして開く)
筆者の判断:「監死者」「穴掘りスコーピッド」を残す。
根拠:
・判断に迷うのは「穴掘りスコーピッド」でしょう。
・「穴掘りスコーピッド」を戻して引きたいのは主に2ターン目の動きです。序盤から攻めるハンターとしてはぜひとも2ターン目から動きたいところです。しかし、このデッキで2ターン目にぜひ使いたいカードは「封印されしヴァイルフィーンド」と「秘密の景品の当選者」からの秘策くらいです。スコーピッドを戻しそれらを引ける見込みは薄く、それよりもスコーピッドという強い4ターン目の動きを確保したいところです。
・もし2マナが多かったり、3マナがまだ引けていなければスコーピッドを戻すことも検討できますが、今回は残した方がいいでしょう。
実践例①-2
- 手番:後手
- 相手:プリースト
- 初手:
(筆者が考えるマリガン:クリックして開く)
筆者の判断:「イセリアル改造屋」「監死者」「歴死学の予習」をキープ。
根拠:
・「監死者」はもちろんキープ、「歴死学の予習」も序盤の動きにつながるためキープ。両者は相性が悪いのですが、それでも1ターン目の「歴死学」で1マナ軽いミニオンを調達できるのは強力であるため残します。出すカードや相手の動き次第では相性の悪さを避けることもできます。
・「イセリアル改造屋」ほか改造屋シリーズのキープはきわどい判断になることが多く、毎回頭を悩ませます。今回の場合2,3ターン目の動き(のようなもの)が既にあり、その辺りを引きに行く優先度が低いこと、加えて自分がハンターであり1点ダメージが貴重なことを考えキープしました。
・「ヴァイオレット・ヴルム」のような重いフィニッシャーはプリーストのような遅いヒーローに対し有効ですが、インフレが進んだ現在ではキープしたいほど強いカードではないかと思います。それよりも、他3枚を残してしまうために4ターン目以降の動きを引きに行きたいです。
実践例②ドルイド
デッキは以下の通りです。(「沼地のヒドラ」を3枚も取れて楽しかったです)
実践例②-1
- 手番:後手
- 相手:メイジ
- 初手:
(筆者が考えるマリガン:クリックして開く)
筆者の判断:「沼地のヒドラ」「封印されしヴァイルフィーンド」「ホードの諜報員」を残す。
根拠:
・「封印されしヴァイルフィーンド」「ホードの諜報員」は序盤の強い動き。もちろん残します。
・論点は「沼地のヒドラ」です。これはドルイドのカードでもトップクラスに強く、7マナながら他の条件によりキープを考えるカードです。
・戻して引きたいカードはさほど多くありません。2~3マナは既に持っているため当たりにならず、4~5マナを引くことでしか改善しません。*1 それよりもヒドラという屈指のパワーカードを残し7(6)ターン目に強い動きを確定させる方が勝率に貢献しそうと考えました。
実践例②-2
- 手番:先手
- 相手:メイジ
- 初手:
(筆者が考えるマリガン:クリックして開く)
筆者の判断:「平原のドルイド」を残し、他2枚を戻す。
根拠:
・「チルウィンドのイェティ」はかつて闘技場のシンボル的存在でしたが、インフレが進んだ現代ではそこまで強くありません。2、3を引きに行くことが優先です。
・論点は7マナ2枚をどうするかです。これらは先ほどのように2,3マナがいればキープできますし、そうでなくてもキープを考えるレベルです。しかし両方残すのは序盤の枠を圧迫し、やりすぎになります。カードパワーは同じくらいなので、性質の違いに着目して考えましょう。
・「沼地のヒドラ」は盤面を取りつつ手札を供給するカード、「平原のドルイド」はとにかく盤面を強くするカードです。重いカード1枚のキープにより、中盤までの盤面が若干手薄になる可能性があるため盤面を補強する/巻き返せるカードの方が欲しいところです。そのため、カードパワーが同格でも「平原のドルイド」をより優先してキープします。
※なんやかんや言いましたが、デッキがやや重めなので双方を戻して軽いミニオンを引きに行くのも悪くない選択肢です。微妙なところだと思います。
最後に
それなりに悩む実例だったかと思います。お疲れ様でした。
ドラフトやプレイングと同じく、マリガンも上位プレイヤーの間で意見が割れるほど奥の深いものになります。毎回のマリガンで残すカード、戻すカードをしっかり考えることは間違いなく上達につながるでしょう。
過去に書いた記事からの抜粋です。マリガンの考え方は若干変わりましたが、奥が深く差がつく要素であることは現在でも同じです。ランキングに載る人でも、この4事例すべてで私と見解が一致する人は珍しいかと思います。(もちろん私が正しいとは限りません。「これはこうじゃないか?」と思うものがあれば教えてください)
もちろん、マリガンはこの記事を読んだだけで習得できるものではなく実戦を通じて学んでいくことになります。キープした/戻して引いたカードがどのように試合に貢献したかを振り返るとよいでしょう。
結果を反省する上で重要なことがありまして、実際の勝ち負けは考えうる分岐の一つにすぎません。それにとらわれ過ぎないようにすることが大事で、実際の結果がレアケースだったのか、それなりに起こりうるケースだったのかを考えることが大事です。仮にレアケースだった場合、その結果にとらわれ過ぎると間違った教訓を得ることになります。この辺りは運が絡むゲームの難しいところですよね…
…とまあやたら偉そうに語ってしまいましたが、私も完璧なマリガンができているとは言い切れないのでした。精進します。
ということで、最後は③ドラフト編です。どうぞお付き合いください。
※昔書いたマリガンの記事はこちら。最初の「基本方針」が気になった方には役に立つかもしれません。
*1:一応、2+2の片割れにはなるが…