近年の闘技場では急襲・雄叫びダメージミニオンが増加しており、この「令和闘技場の思考」シリーズでは環境変化に対応するためのプレイング、マリガンを解説してきました。
この記事では、残るドラフトについても近年の戦略を解説し、さらに「深淵に沈む海底都市」で増えた強力なシナジーカードがドラフトに与える影響を考察していきます。
「最近なんか勝てなくなったな」という人、久しぶりに闘技場をプレイする人の参考になれば嬉しいです。
[弁明] ただし、最近の環境は難解であり筆者も理解しきれてはおらず、成績も平均6~7勝程度で以前よりは振るわなくなっていることを正直に書いておきます。ここに書いたことは大筋では合っている気はしますが、改善の余地があるでしょう。鵜呑みにしすぎず、あくまで参考程度にしてください。
① 急襲・雄叫びダメージの増加→2マナ、1マナの重要性が低下
最近の闘技場では、以下のような雄叫びダメージや急襲が増え、不利な側からの巻き返しが図りやすくなっています、この点は前の「①プレイング編」でも触れましたが、当時からさらに強力なものが増え、この傾向が強まったと感じています。
不利な側からの巻き返しがしやすくなったということは、序盤から2マナ、3マナミニオンを展開する必要が薄れたということです。かつて(3~4年前まで)の闘技場では「2,3マナミニオンを5~6枚は取る」ことがセオリーになっていましたが、現在ではその必要はありません。
頑張って2マナを集めたとしても相手の巻き返し手段で盤面を消され、息切れして負けることが増えた印象です。それよりも重いカードやドローソースに枠を割くことがよく、「迷ったら重く」が一つの方針になります。
具体的には2マナは3~4枚程度、3マナ5枚程度が一つの目安でしょう。4,5マナはそれぞれ4~5枚程度になる気がしていますが、このあたりはまだいまいち掴み切れていません。ただ、デッキバランスよりも個々のカードの強さを判断基準とすることが増えた気がします。
※枚数はあくまで目安です。ぴったりこの枚数を取る必要はなく、1~3マナ、4~5マナ、6マナ以上というざっくりした枠ごとに十分な枚数を集めることが大事です。見た目のマナカーブがガタついていても大した問題はありません。
詳細として、
- 2マナは「伍長」「戦羊騎兵指揮官」のような優秀なものや、隣のカードが弱くてやむなく取らされるものを集めれば十分で、そうすると平均して3~4枚程度になる感覚です。ドラフト次第では1枚でも、6枚でも構いません。
- もちろん、序盤の優先度が下がれば1マナも必要性が低くなります。同様に優秀な場合、隣の選択肢が弱すぎる場合に取る程度でしょう。
- いくら何でも2,3ターン目の両方をパスしてしまうと絶望的なので、どちらかは動けるようにしましょう。2~3マナ併せて6-7枚が最低ラインでしょう。なお、ここまで削れるのは多くの急襲や雄叫びダメージが控えている場合に限られ、デッキとの相談が必要です。
- 2マナのカードでも、「レッドギル・レイザージョー」や「自然の怒り」のような2ターン目の動きにならないものはこの数にカウントしません。あくまでも、そのターンの動きになりうるミニオンや武器の枚数です。
もちろん、1~3マナミニオンの必要性はヒーローによっても異なります。ここは重要なので、詳しく解説していきます。
攻撃的/防御的なヒーロー
最近の10ヒーローの特性をざっくり分けると、こんな感じでしょう。
ここで「攻撃的」と呼んだのは、序盤から攻め続けて相手のライフをいち早く削る短期決戦を得意とするヒーローです。一方、防御的なヒーローは相手のミニオンを効率よく処理し続け、相手の手札、時にはデッキを枯らして粘り勝つことを得意とします。
前者の攻撃的なヒーローなら、2、3マナを5枚程度、1マナも優秀なものを集めて序盤から展開するのがよいでしょう。ただ、単に軽いミニオンを集めるだけでは押し返されてしまうのが今の環境。ミニオンだけではなく、強化や直接ダメージといった押し切る手段がほしいところです。
一方、防御的なヒーローであれば序盤のミニオンを集めるよりも、終盤戦で勝ち筋になる重いミニオンやドローソースに枠を割きたいところです。2マナは優秀なものに絞り、3マナ以降の数に気を配りましょう。
※これはもちろん傾向の話です。攻撃寄りなヒーローでも、雄叫びダメージや急襲、他の除去を集められれば、低マナ帯が少なくても勝てるデッキになるのが今の環境です。逆に防御寄りのヒーローでも除去が少なければ2マナの優先度を高める必要があります。慣れてきたらデッキを踏まえて柔軟に判断しましょう。
原則はこんなところですが、特筆すべきヒーローについて注意点を少しだけ補足しておきます。
ドルイド
ちょっと前までは攻撃寄りのヒーローでしたが、現環境では一転して防御寄り、長期戦を得意とするヒーローになりました。その理由がこれらのカードです。
「ひれのフレンズ」「オニクシアの鱗」はとにかく強力な巻き返し手段、「奇跡の繁茂」は防御とリソース補給を兼ね備えるすごいやつです。しかもこの3枚はいずれも出現率の高いコモン。一気に長期戦適性の高いヒーローになりました。
※「奇跡の繁茂」は8コストに修正されましたが、依然としてほぼマストピックのパワーカードでしょう。3ドローしつつ5/5~8/8程度の挑発を展開するのは、8コストと言えど強すぎます。
これらのおかげで、必ずしも2ターン目からミニオンを展開する必要がなくなりました。やや重めのデッキを組んでも急襲や雄叫びダメージさえあれば押し負けないでしょうし、むしろ手札が多い状態で「奇跡の繁茂」を使えるのでよい戦略になります。
シャーマン
ドルイドとは逆に、ややアグロ寄りの戦略もできるようになりました。コアセットに追加されたこの2枚は、攻撃的な戦略を後押しするものです。特に複数トークンを展開する「非情の死霊術師」などとは相性が良いです。
とはいえ、依然としてコントロール向けのカードも多く、よく言えば万能、悪く言えば器用貧乏なヒーローです。このようなカードの枚数次第で軽いミニオンの枚数を調整したり、逆にマナカーブ次第で全体除去・全体強化のようなデッキを選ぶカードの優先度を調整できるとよいです。難しいですが、方向性を考える楽しみがあるヒーローともいえます。
ウォーロック
1,2マナミニオンはむしろ必要です(※この点は以前と変わりません)。ヒーローパワーによって長期戦は問題なく戦えるため、ドラフトでは「序盤~中盤で早い相手に押し負けないこと」を最優先事項としましょう。
ローグ
攻撃的なヒーローではありますが、ヒーローパワーが2ターン目の動きとなるため2マナミニオンは優秀なものだけ取れば大丈夫です。他のマナ帯に枠を割きましょう。
②強力なシナジーの増加
新しいコアセットや「深淵に沈む海底都市」では様々なシナジー要素が増えました。種族を参照するカード、呪文を参照するナーガ、逆にナーガを参照する呪文などがあります。
また、「デッキの底にxxを沈める」カードと「海底探査」の組み合わせも重要で、片方が取れた時にはもう片方の優先度を上げたいところです。特にこの2組は非常に強力で、レアリティも低いので狙えることも多いでしょう。
さて、このように多種多様なシナジーが増えましたが、すべてを同じ温度感で狙うわけではありません。それぞれの(A)決まった時の強さ と(B)狙いやすさを評価して、優れたシナジーを優先的に狙っていくことが大切です。
(A)決まった時の強さ
一例として、「フェイリン大使」は海底探査を決めた場合大きな勝ち筋になり、このカードが取れた場合以降のドラフトで「海底探査」の価値は大きく上がります。
海底探査した「リバイアサン号」から更に超大型を引くことも珍しくない。闘技場で2枚の「超大型」を使えれば、ほぼ勝ちといってよい。
一方で、シナジーを決めても+1/+1程度のリターンが小さいものもあります。それらに関しては、デッキバランスや個のカードパワーを犠牲にしてまで狙うほどではないでしょう。
(B)狙いやすさ
見落とされがちですが、重要なポイントです。各種シナジーカードは、以下の4種類に分類され、上に行くほど狙いやすいものとなります。
- 片方はデッキにあればよい
- 片方は後で引けばよい
- 両方を手札に揃える必要がある
- 両方を場に揃える必要がある
もちろん、狙いやすいものの方がより重視すべきシナジーになります。
1.片方はデッキにあればよいもの
「カトラスの運び屋」などがこれに当たります。一方のカードを引きさえすれば、もう片方はデッキに埋まっていればよく非常に狙いやすいです。「運び屋/魔法学者が取れてるから、海賊/秘策を足しておこう」という判断をすることが多く、特に意識するタイプのシナジーです。
2.片方は後で引けばよいもの
海底探査などがこれにあたります。先に一方のカードを使っておき、後でもう一方のカードを発動することでシナジーが完成するパターンです。両方のカードを引く必要がありますが、同時に手札に揃える必要はないので狙いやすい部類と言えるでしょう。
「底に沈める」シリーズ+海底探査は、単体でも悪くないものが多く、また引けたときのリターンが大きいので積極的に狙います。中でもこの辺りは沈めるカードが強く、特に狙う価値が大きいです。
3.同時に手札に揃える必要があるもの
ナーガ参照呪文、呪文参照ナーガ、ドラゴンなどがこのカテゴリです。2.と違って同時に手札に揃えなければならない分、難易度は少し高めです。
ここを狙うかどうかは、カードプールと今までのデッキ次第で判断することになります。
例えば、呪文に対応するナーガの場合呪文は多く取れるものであるため、ちゅうちょなく取ることが多いです(※コインもこの対象です)。ナーガに対応する呪文の場合、カードプールにはそこそこのナーガがあり、ドラフト後半であればデッキと相談しつつ判断します。ドラゴンは前環境では強力なシナジーでしたが、現環境では枚数が少なく狙いづらいです。「オニクシアの番兵」などは、よほどドラゴンが取れていなければ狙わない方がよいと考えます。
4.両方を場に揃える必要があるもの
メカが代表的です。盤面に出す必要がある以上、難易度は一番高く狙う機会は少ないでしょう。「海洋偵察オペレーター」は単体の能力値が低いこともあり、あまり取りたくないカードです。「ゴリラロボA-3」の場合はあまり効果には期待しませんが、3/3/4の能力値を評価して取ることはあります。
もちろん、デッキにメカが集まればこれらのシナジーを狙うこともありますが、その基準は1.~3.に比べて厳しいものになります。
最後に
「令和闘技場の思考」シリーズはこれで最後になります。プレイング編、マリガン編、ドラフト編とお付き合いいただきありがとうございました。
(「①プレイング編」の公開から半年以上が経ってしまい、お待たせしました…… ただ、内容は今でも有効だと自信をもって言えます。)
ハースストーン初期(2014年~2016年頃?)の闘技場では、とにかく序盤のミニオンを集めて、効率の良いトレードを繰り返すのが鉄板の戦略だったと聞きます。当時のサイトを見ると「2マナミニオンを6枚は取ろう」なんて書かれていたりします。
上に書いた通り、現環境ではその戦略は有効ではありません。6~8年も経てばカードプールも戦略も大いに移り変わります。
序盤に築いた優位が覆ることは珍しくなく、昔のやり方はもはや通用するものではありませんが、そんな環境にはそれなりの勝ち方があるものです。カードプールに合わせて戦略を調整していくのも、闘技場、ひいてはカードゲーム全般の面白みだと考えます。
一連の戦略論を書きましたが、ここで書いたことも3年後には覆っているでしょうし、もしかしたら一部はすでに時代遅れかもしれません。
この記事をうのみにし過ぎず、いろいろ考えた上で新しい戦い方を試していただけるとうれしいです。
これにて本編は終わりですが、補足を2点ほど書いておきます。お役に立てば。
(補足①)思い出補正に注意
*「②マリガン編」でも書いたので、見覚えがある人は読み飛ばしてください。
昔のパワーカードはつい強い印象を持ってしまいがちです。しかし最近はカードパワーのインフレが進んでおり、昔はマストピックといわれたカードも現在はさほどでもなかったりします。各種Tierリストでも、少し過去の評価を引きずっていることがあります。
例えば以前パワーカードとされた「呪術」、「ファイア・エレメンタル」のHeartharenaにおける評価は、近年のパワーカードと同じくらいになっています。
Heartharenaによると呪術:96点、ファイア・エレメンタル106点に対し霰ん坊100点、降雪の守護者は92点です。
しかし「呪術」に試合を壊すほどのパワーはなく、ときおり勝負を決定づける「降雪の守護者」や、コンスタントにコストを超えた活躍をする「霰ん坊」のような最近の強力なカードよりは一段劣るかと思います。
HSReplay.netの統計データを見ても、それらのカードの方が「呪術」などより勝率が高いです。
Hearthstone Card Statistics - HSReplay.net
他のヒーローでも同じような傾向がありまして、昔のカードはつい過大評価してしまいがちです。古参プレイヤーの方は統計サイトや闘技場配信を見つつ、適宜評価をアップデートしていきましょう。
(補足②)参考にしているサイト
もっと知りたい人へ。
・Heartharena
筆者が最も信頼しているTierリスト。ドラフトツールも配布しています。
・HSReplay.net
統計サイト。強いヒーローを知りたければここ。
トップページのヒーロー勝率をベースとしつつ、自身の得意や苦手でヒーロー優先順位を調整しています。特に、環境が変わった直後は頻繁に確認しています。
カード勝率はHeartharenaに次ぐセカンドオピニオンとして使っています。ただしバイアスや分散も多いために盲信するのは危険で、中級者以上におすすめ。
モードを「闘技場」にして、レジェンドを除いて、”Deck Winrate”順に並んだものをブックマークに入れています。
・Twitch
言わずと知れた配信サイト。最近は闘技場配信が増えてきた気がする…!
・Twitter:#12勝HSアリーナタグ
闘技場プレイヤーが12勝デッキを投稿しています。具体的にどんなカード、どんなデッキバランスが良いか考えるのに役に立つでしょう。
もちろん誰でもこのタグをつけて大丈夫です。Twitterアカウントをお持ちの人はぜひ。
・業務用アリーナ情報
闘技場プレイヤーのKuromameさん、アンチノミーさんがまとめているアリーナお役立ちサイト。環境ごとの秘策リスト、特定カードの発見先リストなどが精力的にまとめられておりハードコアプレイヤーにおすすめ。
たまにやるくらいの人にも、環境ごとの秘策一覧は役に立つはずです。