That's Arena!

ハースストーンの闘技場・バトルグラウンドを勝ち抜く戦略

なぜ初手の「無害なボンクラ」は強いのか? ――バトグラで重要な「受け」の話

(ハースストーン バトルグラウンドの記事です)

1ターン目の酒場に以下のミニオンが並んでいます。どれを取りますか?

無害なボンクラロックプール・ハンター

 

私は圧倒的に「無害なボンクラ」が強いと思っています。単体の戦闘能力は低くても、以降の強いミニオンにつながりやすいからです。順を追って説明していきましょう。

理由1:低グレードのミニオンとの相性の良さ

「ボンクラ」は単体性能は弱く、1ターン目、2ターン目の戦闘は負ける、あるいは引き分けることがほとんどでしょう。しかし、グレード2~3あたりのアンデッドと極めて相性が良く、3ターン目以降は序盤に失ったライフを挽回するほど強くなれる可能性がそれなりにあります。

特に、「墓所の暴食者」との組み合わせが非常に強力です。毎ターン「ボンクラ」、そして断末魔から出てきたトークンを食べさせ続けることで3ターン後には19/18という巨大なミニオンができ、ライフを守りながらグレードをどんどん上げていくことができます。

無害なボンクラ

 

暴食者を引けなかったとしても、他にも強いコンボがあります。自身を合わせ3体分のアンデッドとなる「ボンクラ」は、下のような「アンデッドの攻撃力を上げる」カードと非常に相性がいいのです。

死群のネルビアンキレ餓鬼 | ハースストーン名鑑 - ゲームウィキ.jp

 

近年のバトルグラウンドでは特に、ミニオンの単体性能ではなく複数体のミニオンの効果をコンボさせて戦う傾向が顕著になったと感じています。強いコンボの前提になるカードを序盤に抑えておくことは、非常に価値のあることです。

配信などでは、このようなコンボの前提が「受け」と呼ばれていたりします。例えば「ボンクラは暴食者とかキレ餓鬼の受けになる」といった感じで、多少単体としての性能が低くても強い組み合わせの片割れになれるミニオンは高く評価されます。

このような組み合わせが1通りしかなければ狙いづらいものとなりますが、「ボンクラ」のようにグレード2、3に居る複数のミニオンと相性がよければ分の良い賭けになります。

 

理由2:アンデッド自体が最終構成として強い

ここまでが「ボンクラ」の強い理由の半分です。もう一つ重要なのは、こうしてできた中盤の構成がさらに最終盤の強い構成の「受け」になっているということです。

 

現在の環境では、「亡者家令モローズ」を使った構成がとても強いです。取った直後から(+2/+6)という大きな強化を蘇りにより2回行うことができ、さらに「大リッチ・ケルスザード」とのコンボで毎ターンモローズを、ひいてはゴールデンのモローズを増やし続ける動きが非常に強力です。

 

※最終的にこんな感じになります。壮観!

 

さて、このように強い「モローズ」ですが、単体で活躍するミニオンではありません。「モローズ」を取れてからアンデッドをかき集めても、間に合わずにライフがなくなってしまうことは珍しくないでしょう。

しかし、大きな「墓所の暴食者」や、アンデッド複数体+「キレ餓鬼」という構成が既にできていればどうでしょうか。取った直後から「モローズ」を強く使うことができるのでライフを守れますし、一からアンデッドを探す必要もないので「ケルスザード」や「タイタス・リーヴェンデア」といったコンボパーツを探しに行く余裕ができます。

 

このように、「ボンクラ」という受けがいるから取ることができた「暴食者」や「キレ餓鬼」が、さらに「モローズ」のような勝負を決めるミニオン「受け」となります。このように最終構成に使われるミニオン、特に環境で強いミニオンにつながりやすいということが「暴食者」の評価を高め、ひいてはそれを可能にする「ボンクラ」の評価を上げる理由になるのです。

もちろん毎試合このように上手くいくわけがありませんし、初手に取ったミニオンに縛られる必要はありません。ただし、「窮地の闘士」のように何の発展性のないミニオンの単体性能では戦えないのが今の環境です。「ボンクラ」のように「受け先が来れば強い」ミニオンをできれば複数持っておくことは、毎回は勝てなくても勝てる可能性を着実に高められる選択肢でしょう。

なお、2つ目の強みは環境次第なところがあります。例えば、ちょっと前まではアンデッドは強い構成といえず、仮にそのような環境に「ボンクラ」が現れたとしてもそこそこのミニオン止まりだったでしょう。重視すべきは強い最終構成につながりやすい中盤の動き、さらにそれにつながりやすい初手です。

ここで挙げた「モローズ」ですが、かなり強いため弱体化される可能性は大いにあります。そうしたら初手における「ボンクラ」の優先度も下げる必要があるかもしれません。

 

具体解説:グレード1ミニオンの格付け

ということで、序盤のミニオン選択では、 ①中期的に(グレード2,3あたりで)強い戦線を作れる、そして②最終構成(できれば環境で強いもの)の「受け」になる ようなミニオンを優先するのが良いことを解説しました。

ここまででおおむね言いたいことは言えました。具体的な理解のためにグレード1のミニオンをいくつか、主に「受け」の観点から解説したいと思います。

独断と偏見で、強い順に紹介しましょう。(2023/12/29時点)

 

1.「アップビートなリードボーカ竜」

アップビートなリードボーカ竜

最強の初手ミニオン。6ターン目までに2体のドラゴンを供給できるので、これを取るだけで中盤のドラゴン構成につながりやすいです。ドラゴンが最終的には強い構成にはなりにくい点は玉に瑕ですが、それでも初手としては破格の強さです。

1~3ターン目には恐らく負けることになりますが、4ターン目以降はほかのグレ1より少し強い盤面を、7ターン目以降にはかなり強い盤面を作れるので問題ないでしょう。

 

2.憤怒の織屋

憤怒の織屋

「ソウル・リワインダー」とのコンボが強い。ライフ損失なしで盤面強化をしつつ、将来の悪魔構成の「受け」にもなります。悪魔の環境におけるポジションによっては評価が落ちますが、今は強い種族なので「織屋」もかなり良い初手です。

 

ソウル・リワインダーダンスのプリンス・マルシェザール浮遊する番人

※「リワインダー」を引けず、他の悪魔を取らされても序盤なら許容範囲といったところです。序盤の2/1強化によって、戦闘に負けずに済んだり、負けたとしてもダメージ量を抑えることができたりするため失ったライフ分の活躍はしてくれるでしょう。

 

3~5.アンデッド3人衆(「マイクロマミー」はアンデッドがいる場合に限る)

無害なボンクラ蘇ったウルフライダーマイクロマミー

甲乙つけがたいですが、これらのアンデッドはどれも中盤に強い「暴食者」などの受けになり、さらに現環境トップクラスの「モローズ」につながりやすいのが良いです。ひょっとしたら織屋より強いかも?

「ボンクラ」はコンボ重視型、「マイクロマミー」は単体性能型、「ウルフライダー」はその中間といった感じです。なお「マイクロマミー」はアンデッドなしであれば評価が落ちます。

 

 

6.海鮮丼屋(ナーガ・獣の両方がいる場合に限る)

海鮮丼屋

単体でもそこそこいい戦力でありつつ、ナーガ・獣の両方がいると多くのグレード2ミニオンの受けにもなっているのがうれしいです。ただし、これらのミニオンは強い最終構成にはつながりにくく、中盤の戦力にとどまりやすい点がマイナスです。

溶岩に潜むものウミウシ騎士空腹のオオアゴガメ

 

7~9.コイン得ミニオン3種

貝殻収集家ウレメンタル南海の大道芸人

以前からバトグラを遊んでいた人は、これらの評価の低さにびっくりするかもしれませんが、今は中の上くらいかと思っています。(アンデッドが構成として弱くなれば、アンデッド3人衆より優先することがあるかもしれません)

前は最高クラスの初手でした。その理由は、3ターン目、5コインを使える時に「これらの雄叫び/売却で1コインを足し、2体のミニオン購入が可能になる」ということでした。

しかし、今は酒場に呪文(その多くは1~2g)が存在するため、これらを売却しなくてもコインを効率よく使うことができ、初手にこのようなコイン得ミニオンを買う必要がないというのが私の考えです。

 

そのような環境においては、「受け」の観点からいまいちなのが弱いです。グレード3までのコンボとしては、「南海の大道芸人」が「ギリガルル船長」「火薬の運び屋」などと相性が良い程度です。

ギリガルル船長火薬の運び屋

ただ、他に受けの狭いミニオンを買うよりは、これによって3ターン目に2体の別のミニオンを購入することで結果的にそれ以降の受けが広がることになります。それを勘案すると、他の弱いミニオンよりは依然として優先すべきでしょう。

また、3ターン目の酒場がいまいちだったり、早期にグレード3に行きたい場合にこれらのミニオンで1コインを捻出しグレード3に上げる、いわゆる「3on3」がやりやすいのはメリットです。現環境はそこまで3on3が強くありませんが、グレード3ミニオンが強くなれば初手コイン得の優先度は高くなるでしょう。

 

 

他にもグレード1ミニオンは10種くらいあるのですが、上に挙げたものよりは受け先が少なかったり、単純に戦闘能力が弱かったりするものです。なお、この辺りはヒーローパワー次第で時々上記より優先することがあります。

マジウザ・オ・トロンエメラルド・チビ始祖ドレイク

 

ここまでくると「窮地の闘士」の弱さもなんとなく伝わったかと思います。種族もなく、何の受けにもならないミニオンは、初手として最低クラスの評価になります。

(攻撃力を失うデメリットが無かったとしても、初手の上位には入れないかと思います。ゆえにヒーローが「ロカラ」で初手に取るプレイもあまり強くない気がします。)

窮地の闘士戦闘の栄光

 

また、グレード1ミニオンの強さの理由が受け先による以上、ミニオンの強化/弱体化、追加/削除次第で初手の評価もガラリと変わります。ここに示した評価は、ごく一時的なものであることに注意してください。

王道ハースストーン同様バトルグラウンドも調整がこまめに入るゲームであり、それに応じてこまめにグレ1の優先度も考え直すのがよいです。

 

ということで、上級者が重視している「受け」という概念の話でした。

バトグラ配信などで上級者のプレイを見ていると、発見などで欲しいカードを引き込んでいて「なんかこの人引きが良いな」という印象を抱くことがあります。ただ、そう見えるのは受けを作るのが上手く、多くのカードを強く使える体制が整っているからではないかと考えています。運そのものに個人差などないのですから。

迷ったときに受けの多いミニオンや、強い構成を受けられるミニオンを取れるようになれば、構成を上手く作りやすくなるかと思います。この記事が上達に役立てばうれしいです。

 

 

 

 

 

ロビレジェ権利を獲得するためにやったこと

「自分より上手い人が、自分より長い時間バトグラをしている。どうやって勝つか?」

6月下旬ごろに向こう数か月は時間を割けそうなことが分かり、今年最後の、ひょっとすると歴代最後になるかもしれないロビーレジェンド(世界大会)の権利を目指すことにした。上記の問いは、なみいる強豪を押しのけて権利を得るため避けては通れない課題であり、この3か月間ずっと考え続けたものである。この度無事ロビレジェに出られたこともあり少し整理してみたい。

 

実績

挑戦前:アジアランキング10位から25位程度、最高レート14700程度

結果:7~9月の最終順位は3位,9位、20位。総合Ptは18ptで秋のロビレジェに出場。(権利ボーダーは16~17pt)

  最高レートは15222(アジア1位)で自己ベストを更新。

  ロビレジェではベスト16

 

配信視聴:「自分ならどうする?」を問い続ける

私含む勝ちたがりは自分でプレイすることを好む傾向にあるが、他人のプレイから学ぶことは数多い。特に時間がとりがたい社会人であれば、プレイ回数で先行するプレイヤーから学ぶ価値が高いため意識的に視聴を増やすようにした。

とはいえ自分のプレイにも時間を割きたいところである。アーカイブを1.5倍速で見て悩みどころだけ時間を使うようにした。

普段バトグラをプレイしていると悩むポイントが生じるはずだ。それらをストックしておいて、観戦時はそこに注目する。実際に注視したポイントは下のような感じである。

  • エスト条件と報酬の重視度合い、(クエストを見据えた)5g抱えの判断基準
  • ベースギルの使い方、エレメンタル構成の参入基準とグレ上げ、グレ3ボア構成の上げタイミング
  • 猛毒ミニオンの購入基準や、既存構成を崩しての降り方、配置
  • 各種異常のマナカーブや最終構成全般(特に、ゴールデン闘技場、保証なき市場など普段とまったくコストパフォーマンスが変わる中での購入基準)。など

 

視聴の際は常に「自分ならどうする?」を問う。配信者との違いが生じた場合、それが妥当な戦略かを実際の結果、および想定しうる分岐をもとに考えてみる。完璧な答えが出ることはまれだが、ぼーっと眺めるよりは上達に役立つだろうと信じている。

学ぶのはその環境で著しい結果を出しているプレイヤーで、おおむねランキング1ページ目の人であった。たまに「自分と性質の似たプレイヤーを見ろ」といった主張がなされるが、その必要はない。たとえ完璧にトレースできなくとも、その環境で勝ち馬となる戦術は積極的に学ぶ価値があるし、違うプレイヤーの考えを盗むことで引き出しが増える。

異なる戦術を取り入れると短期的には平均順位が下がることもあるが、長期的に自分になじませることで成果につながる。最終的に世界を目指すためには避けて通れない道だだろう。

 

メンタル:勝負強さは習得できる技術

とある方のロビレジェミラー実況で、私のことを「緊張するような場面でも力を十全に発揮できる」と評していただいた。個人のメンタルは一朝一夕に変わるものではないが、考えながらやっていけば長期的には強いマインドを作ることができると信じている。

 

楊海さんもそう言ってた。

ヒカルの碁」16巻より。気持ちのコントロールが上手くいかずにプロ試験合格を逃した伊角は、中国への武者修行中に楊海から教えを受けることで徐々に弱点を克服していく。

▼まったく関係のないオタク語り この中国棋院編は伊角の成長が克明に描かれた、作中でも屈指のストーリーだと思っている。いい年をした大人になってこの作品を読み返すと、子供のころとはまた異なる感動がある。ヒカル、塔矢、伊角たちの主人公グループはもとより、それを取り巻く大人たちもまた魅力的なものに思えるのだ。緒方十段、楊海さん、椿さんなどそれぞれの大人が、勝負の世界の中で自分なりの信念を持って輝いている様子は、子供のころにはいまいちピンとこなかったが同年代になってみるととても美しく感じられるものであった。本作品について「プロ試験までがピーク」みたいな評価も見受けられるが、プロ以降の展開は特にそういった大人たちの活躍が描かれることが多く、プロ試験までとはまた別の魅力を持ったストーリーではないか。

 

閑話休題。「勝負強さは習得できる技術だ」という話であった。

 

このメンタルの項目が最も重要で、時間をかけて書きたい。私がバトグラ、及びそれ以前のゲーム体験で少しずつ作ってきた考え方を紹介する。メンタルの在り方は十人十色であり、ここに記載した内容はかなり個人的な色が強いが、何かの参考になればうれしい。

一口にメンタルといえども、長期的な向上心の維持と、短期的な、主に試合中のパフォーマンス維持に分かれる。

①長期的な向上心の維持

原則は「勝つことではなく上手くなることを目指す」である。たとえ最適なプレイをしても運要素で負けることはあるし、逆に悪いプレイをしても勝てることはある。しかし長期的に勝ち続けるためには実力を培うことが欠かせないため、短期的な勝ち負けに翻弄されずに自分のプレイを振り返る姿勢が必要になる。

ただし、心がけだけでは何も変わらない。それを喚起する環境づくりやアクションを行うことが必要で、Hearthstone Deck trackerの表示はその代表的なものである。デフォルトでは以下のようなオーバーレイが出てくるだろう。

 

このうち、上達に不要なものや有害なものは消す。

  1. 左側に直近のレート収支が出るが、配信をするのでなければ必要ない。勝っていようと負けていようとすべきプレイは同じであるからだ。直近の戦績が見える状態にあると、勝っているから気が緩んだり、負けているから取り返そうとしてプレイの歪みを生む。
  2. 上側に出る勝率計算は、個人的には使っても良いと思っている。いらだちの原因になることもあるが、それ以上に敗因の分析に役に立つからだ。下位落ちした時などに単に当たり方が悪かったのか、それ以外(自分の盤面の弱さ・相手の強さ)が敗因であったのかを切り分けるためにあえて残している。ただし、それをやらずに確率で気分を害するのであれば消すのも一手である。
  3. 右側のミニオン一覧は残す。各グレード発見の「当たり」の枚数、ありうる最終構成をカウントするのに有益。気になったら確認する習慣をつけることで、知らず知らずのうちにカードプールについての全体感が養われるだろう。
  4. 左上のBAN表示は消している。残してもいいが、登場しない種族ではなく、登場する種族ベースで考えるのが個人的にはやりやすいと思っているため。

また、試合の合間は振り返りの時間に充てている。結果はだめだとしても、可能な限り良いプレイができていれば万々歳だし、逆であれば改善点を探るのが良い。特に月末はどうしても結果重視になりがちではあるが、気づいたそばからプロセス重視に切り替えていくことが長期的な上達のためには欠かせないだろう。

時には「当たり方が悪い」と評価せざるを得ない試合もあるだろう。それならそれでよいが、決して次の試合にフラストレーションを持ち越してはならない。コントロール不可能な要素を忘れ、改善できる要素に集中することが重要。

②短期的な精神安定性の獲得

主に運要素の下振れ、上振れに対して、プレイを乱されないようなメンタルを構築することを目指す。

バトグラには当たり方、酒場、ヒーロー、発見、対戦相手など多数の運要素があり、すべてが平均以上の試合などほとんどない。悪かった要素をあげつらって「自分は運が悪い」みたいな主張をすることは簡単だが、それは建設的な態度ではない。

下振れは普通に起こりうるものだと認識することが第一歩だ。トッププレイヤーの下位落ち率は20〜30%程度である。この場合、下位落ちが3回続いてレートを250くらい溶かす事象は2-3%程度の確率で起こるのだから、月200戦もやれば特にプレイがゆがんでいなくても1度や2度くらいはありうるものである。「ナイアガラはありうること」として捉え、過度にプレイを乱されないこと、仮に乱れているのを自覚したら切り上げることが重要である。

実際にやってみるとわかるが、この「乱れている自覚」が難しいところである。特にレートを大きく失うと取り戻したくなる衝動に駆られるはずだ。よくわかります。

ただし、そのあとすぐにプレイを続けてレートを取り戻せる確率は決して高くなく、むしろ大幅にレートを失うことも珍しくない。もしそのような経験をしてしまったのであれば、自分がどのようなきっかけでプレイが乱れ、その後どのようなことができなくなるかを振り返っておくことが再発防止につながるだろう。決して気持ちのいい作業ではないが、やる価値はある。

  • きっかけの例 当たり方、煽りエモート、酒場の下振れなど
  • それによる不調の例 順番ミス、雑な配置、過度に保守的あるいはリスキーなプレイ

この点は大いに個人差があるので、自分なりの兆候を見つけることが重要である。自分のプレイのゆがみがどのように発生するかを把握しておくことが、早いタイミングでプレイを切り上げ、大幅なレート損失を回避することにつながる。また、ロビレジェ等の中断が許されない場面においても、自分のメンタルの乱れに自覚的になることでいくらか対処の余地が生まれるだろう。

逆に、好調ならぶっ続けで回すのが良い。勝ち続けていたり、普段できない良いプレイができていることに気づいたら、食事も買い物も洗濯も後回しにして遊び続け、気づいた時には500くらい盛れることがしばしばある。(これは独身者の特権かもしれない。家族がいるひとは真似しないほうがいいかもです)

アミタスで1ターン目に殴られたときに

また、相手の非最適なプレイのせいで不利な状況に立たされることはよくある。代表的なのは「アミタスの思慮」異常で1ターン目から弱いミニオンを買う相手に被弾したり、「ノルガノンの秘密」異常にもかかわらずひたすら低グレードに居座る相手に15点ダメージを受けたりすることだ。

アミタスの思慮ノルガノンの秘密

腹立たしく感じることもあるだろうが、それによって自分のメンタルを乱されないことが大事である。たしかに非最適なプレイをされて、その相手とタイミング悪く戦闘した一戦は損失があるだろう。しかし、対面以外の相手がこのような非最適なプレイをして、そのプレイヤー自身及び対面者が共倒れすることもあるだろうし、8人で行うゲームである以上その頻度はずっと高いはずだ。自分より練度の低いプレイをする相手がいるからこそレートを盛れていると捉えれば、たまに被弾することくらいは笑って許せるかもしれない。

参考にした本

一連のマインドセットは全てを新たに作ったわけではなく、これまでのゲーム体験や日頃の情報収集などから得たものが多い。これまでフルに実践することはなかったが、今回のロビレジェ挑戦は求められる上達度合いが大きいため真面目にやる必要が生じた。主に参考になったのは以下の本である。

「ザ・メンタルゲーム」ジャレド・テンドラー

ポーカーをやっていた時に読んでいた本。ポーカーもメンタルが重要なゲームであり、特に運要素の変動に翻弄されることなくプレイを続け、そして長期的に向上心を保つことが重要なところはバトグラに似ている。学んだことは数多い。

「東大卒プロゲーマー」ときど

主に向上心を維持するためのマインドを学んだ。ウメハラさんはもとより、ときどさんもすっかりベテランゲーマーの域に入りましたね。最近の若手ゲーマーでいい人がいたら教えてください。

「上達の法則 効率のよい努力を科学する」岡本 浩一

物事の上達にどのようなプロセスがあり、どのような練習を積んでいくべきかの一般的なセオリーを解説する本。上級者のマインド、スランプ脱出の在り方が参考になった。

 

時間管理:寝ろ

ロビレジェ挑戦者の中では、社会人ということもありプレイ時間が少ない方である。ただし一般的には多い部類であろう。

まずは睡眠が重要である。睡眠時間を削ってプレイすることは極力避け、十分な睡眠を心掛けた。これは良きプレイのためにも、良き仕事(ひいては定時退社)のためにも第一である。

下記は自分を睡眠ガチ勢にした連載。すっかり長期連載になっているので、適当なところまで読めば十分だろう。私も最新号までは追い切れていない。

睡眠時間を確保したこともあり、繁忙期の9月は潤沢なプレイ時間を確保できなかった。それにより20位に終わったが、仮に寝ずにやっていたとしてこれより良い成果が出ていたかは疑問が残るし、バトグラ以外にも支障が及んだかもしれない。9月の順位は芳しくなかったが、必要な順位を得る取り組みをしたので悔いはない。

また、別のゲームにまとまった時間を割くことはかなり難しい、というか自分の場合無理であった。ただし、それを苦痛に感じることはなかった。元来一つのゲームを遊びつくせればよいという性分なのかもしれない。

 

特異性:高速道路の先の渋滞

普通のことを普通にやるのは、トッププレイヤーにとってスタートラインにすぎない。何か抜きんでたものがあると勝ちにつながる。

自分の場合は数学的な思考が最後の一押しとなってくれた。確率の評価、及び統計分析である。いずれも学術的に高度なことをしているわけではないが、計算の結果から戦略を見出すことに成功し、それがプレイに役立ったと自負している。

確率を判断基準にするプレイヤーは少ない印象だが、各グレード別のミニオンの出現率、発見で目当てのミニオンを引ける確率をざっくり把握することはプレイの役に立つと感じる。特に異常ごとの戦略を考えるのに役立ち、例えば「ノルガノン」、「大リーグ」、「酒場スペシャル」といった異常が酒場プールを変える中で、それぞれに応じたミニオンの出現率を求めることによってどのように戦略を変えるかの参考になった。長いことプレイすればどのみち直感として養われる面もあるだろうが、確率計算を通じて考えることでより早いうちにセオリーを獲得できる。

 

分析の一例。なにかの機会に発表しようと思いつつ、結局タイミングを逃した。

統計分析も重要な武器になった。統計サイトなどで平均順位などの数値が出ることがあるが、それがどの程度信頼に足るのか、「具体的には信頼区間はどの程度か?」「勝率と強さの間にバイアスは作用していないか?」などを考えることができ、データの本質を汲み取れたのが大きかったように思う。

これらによってレートが劇的に上がることは無く、レート15000のうちのせいぜい300程度を形作っているに過ぎない。ただし、強者ひしめく中ではその300が決め手となって、一歩抜きんでることができたと自負している。

もちろん他のトッププレイヤーについてもそれぞれ特異性がある。彼らの配信などを見ていると、例えば駆け引きの強さ、極端な独創性、分岐に対する大局観などなど「理屈はわかるが、まねできそうにない」ような強みが見受けられることがある。それもその人がこれまでに遊んできたゲームや他の生活の中で培われたものなのかもしれない。

これだけインターネットで情報が飛び交う中で、「一般論」めいた知識はトップ層にとって持っていて当たり前の情報になる。そのうえで何かしらの模倣しがたい能力があれば、それが抜きんでるきっかけになるのだと思う。

※ちなみにこのような現象は、対戦ゲーム全体で、また恐らくはそれ以外の競争でも起こっており、プロ棋士羽生善治さんが2006年に指摘しているところだ。

「ITとインターネットの進化によって将棋の世界に起きた最大の変化は、将棋が強くなるための高速道路が一気に敷かれたということです。でも高速道路を走り抜けた先では大渋滞が起きています」

梅田望夫ウェブ進化論」より、羽生善治氏の発言

 

この指摘からすでに17年経ち、このような傾向はますます強まっていると感じる。トップ層で勝ち続けるためには一般論をくまなく情報収集したうえで、容易に模倣できない強みを作るのが必要だと感じており、日々勝ち方を模索している。

 

あとがき:ロビレジェっていつも同じ人が出てるよね?

前にこんなことを書いた。

「バトグラの上手い日本人」と言われて、誰を思い浮かべるでしょう。

日本には多数の優れたプレイヤーがいます。ただし、そのほとんどは古参寄り、少なくとも一昨年までには頭角を現していた人ではないでしょうか。2022年からの1年半、新たなスターと呼べる人はこの界隈に現れたでしょうか。

今もこの状況に変わりはない。惜しいところまで到達する人はいるのだが、結局ふたを開けるとロビレジェに出場するのはいつもの面々がほとんどだ。日本だけでなく、海外でもこの傾向は強い。

これはこれでいい。今のトッププレイヤーはそれに足るだけの技量を持っていると思う。

ただ、新しい勢力が割って入り競争が盛り上がるのであれば素晴らしく思う。来年の競技シーンがどうなるかわからないが、今上手い人だけで権利を争うとしたら界隈は先細りする一方だ。ここに書いたことはきわめて個人的でどの程度役に立つのかわからないが、来年ロビレジェがあった場合に目指そうとしている人の参考になればありがたい。

また、自分は普段配信をしておらず、他のプレイヤーに比べ受け取るだけの人になってしまっている気がしたので、せめて何か発信しようと思ってこのような記事を書いた。

 

楽しかった?

なんやかんや書いたが、この3か月は非常に充実した期間であった。シリアスにプレイし続けるのは決して楽しいことばかりではなかったものの、今までにない成長ができ、一時的ながらアジア1位を獲得するなど努力に見合う成果を得られてうれしく思う。一方で、本大会で優勝したjeefをはじめ世界トップのプレイヤーとはまだ力量の差を感じており、もし機会があればリベンジしたいと考えている。

どうやら11/3・4のBlizzconで、バトルグラウンドの新たなニュースがあるようだ。E-Sports関連で良い知らせがあればと思う。

 

 

アップビートな配置学クイズ【バトルグラウンド】

 

問1:チュートリアル

このターンに手に入れた「アップビートな成り上がり」と、そのゴールデンを持っています。正しい配置は下のどちらでしょうか。

※1 いずれも、次のターンの終了時に効果が発動します。

※2 次の戦闘を気にする必要はありません(初手降参のケルスザードに当たったと思ってください)。あくまで効果を最も効率よく発動できるよう配置を考えましょう。

 

正解、解説を読む

正解の配置はBです。

なぜでしょうか。「ターン終了時」の効果は、原則として以下の順で発動します。

  1. 前のターンから居たミニオンが、前のターンの配置順(左から右)に発動
  2. そのターンに置いたミニオン(召喚順)
  3. 「ロック将ブーン」のヒーローパワー

つまり、次のターン終了時に都合の良い発動順になるよう、前のターンのうちに配置を考える必要があるのです。

(参考:ハースストーンの挙動を検証 – Hearth Tech 291 | BeerBrick Hearthstone

 

この例で言うと、Aの場合(金成り上がりを右)、

①普通の成り上がりが、場の最大体力(30)をコピー→(4/30)

②金成り上がりが、場の最大体力(30)を倍→(8/60)

 

という手順になり、一方Bでは

①金成り上がりが、場の最大体力(30)を倍→(8/60)

②普通の成り上がりが、場の最大体力(60)をコピー(4/60

 

となり、普通の成り上がりの体力に2倍の差がつきます。前のターンのうちに金成り上がりを左にしておくと、体力が2倍になった後で普通の成り上がりがその体力をコピーできるのです。

 

さて、この配置順に注目して次の問題に行ってみましょう。

 

問2:印象主義の失敗

自分の場に「アップビートな印象主義者」、「アップビートなリードボーカ竜」「アップビートなデュオ」がいます。いずれも、次のターン終了時に発動します。

さらに、酒場には「艦隊提督テティス」がいるとします(このターンには買えません)。

自分の場の3体はどのように配置するのが最善でしょうか?

※1 前の問題と同様、次の戦闘は気にしないものとし、効果を効率よく使える配置を考えましょう。

 

正解、解説を読む

 

左から「アップビートなデュオ」→「アップビートな印象主義者」→「アップビートなリードボーカ竜」が正しい配置でしょう。

次のターンに酒場にある「テティス」を買って「デュオ」でコピーしたのち、「印象主義者」で金にしたいところです。そのため、「デュオ」→「印象主義者」の配置は確定です。

一件無関係な「リードボーカ竜」ですが、稀に「失敗作」を持ってきてしまい「印象主義者」が失敗作に発動してしまう事故があり得ます。これを防ぐため、前のターンのうちに印象主義者より右に置いておくのが安全でしょう。

 

海賊でありドラゴンでもある

 

問3 序盤あるある

「アップビート」シリーズだけでなく、他の「ターン終了時」効果も前のターンの配置順に発動します。下はいかにも序盤にありがちな盤面です。ただし、低空飛行竜のアタックが6になっていることに注意してください。

どのように配置するのがいいでしょうか。

 

※1 6通りの配置のうち、答えは2つあります。一つを挙げればOKです。
※2 次のターン、これら以外のミニオンやヒロパによる強化は無いものとします。

※3 前の問題と同様、次の戦闘は気にしないものとします。

 

正解、解説を読む

この場合は低空飛行竜⇒他2体が最善です。

※コモリ、マイクロマミーの順は問わず、低空飛行竜の右にいればよい。

 

この問題のポイントは、「コモリロボより先に、低空飛行竜を発動させたい」ということです。コモリロボが先に発動すると、低空飛行竜のパワーと並んでしまいパワー1付与を損することがありうるので。

話をややこしくしているのは「マイクロマミー」です。この場合は一番右がいいでしょう。このターンマミーがコモリロボをバフしてしまうと、コモリのパワーは5になります。

問題は次のターン終了時です。マミーが左にいて最初にコモリにバフしてしまうと、低空の効果が発動する前にコモリのパワーが低空飛行竜と同じ6になってしまい、低空のバフを受けることができなくなってしまいます。少し複雑ですが、それぞれの場合のターン終了時のパワーの表を参考までに貼っておきます。

 

そのため、このケースではマミーを低空より右に置いた方がいいです。

ただし、常にそうとは限りません。例えば下のように「低空飛行竜」が他のミニオン多数と同じパワーになっている場合は、マミーを左に置いて先に発動させる方がよいでしょう。運よくマミーが低空飛行竜をバフできれば、低空飛行竜が他の全てのミニオンをバフできるからです。

ケースバイケースで、場面ごとに考える必要があります。序盤は他にもいろいろ考えることがありますが、余裕があれば次のターンを見越した配置を考えられるとちょっと得できたりします。

 

補足:下のように金の「成り上がり」と「歩く要塞」がいる場合、歩く要塞を左にした方がお得です。要塞の+4強化をしてから、その強化を含めて2倍にできるからです。もちろん、普通の成り上がりは金より右に配置します。

 

ということで、地味なようで結構重要な配置学の問題でした。

実際にバトグラをしていると、このような配置以上に買い売りの操作や大まかな方向性決めが重要なことが多く、そちらに時間をかけたい場面も多いです。

ただし、時間が余った時だけでもこういった配置に気を配れるようになると間違いなく差がつきますので、頭に入れておくとベターではあります。余裕があれば、ここで紹介した内容を活かしていただけると嬉しいです。