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ハースストーンの闘技場・バトルグラウンドを勝ち抜く戦略

ロビレジェ権利を獲得するためにやったこと

「自分より上手い人が、自分より長い時間バトグラをしている。どうやって勝つか?」

6月下旬ごろに向こう数か月は時間を割けそうなことが分かり、今年最後の、ひょっとすると歴代最後になるかもしれないロビーレジェンド(世界大会)の権利を目指すことにした。上記の問いは、なみいる強豪を押しのけて権利を得るため避けては通れない課題であり、この3か月間ずっと考え続けたものである。この度無事ロビレジェに出られたこともあり少し整理してみたい。

 

実績

挑戦前:アジアランキング10位から25位程度、最高レート14700程度

結果:7~9月の最終順位は3位,9位、20位。総合Ptは18ptで秋のロビレジェに出場。(権利ボーダーは16~17pt)

  最高レートは15222(アジア1位)で自己ベストを更新。

  ロビレジェではベスト16

 

配信視聴:「自分ならどうする?」を問い続ける

私含む勝ちたがりは自分でプレイすることを好む傾向にあるが、他人のプレイから学ぶことは数多い。特に時間がとりがたい社会人であれば、プレイ回数で先行するプレイヤーから学ぶ価値が高いため意識的に視聴を増やすようにした。

とはいえ自分のプレイにも時間を割きたいところである。アーカイブを1.5倍速で見て悩みどころだけ時間を使うようにした。

普段バトグラをプレイしていると悩むポイントが生じるはずだ。それらをストックしておいて、観戦時はそこに注目する。実際に注視したポイントは下のような感じである。

  • エスト条件と報酬の重視度合い、(クエストを見据えた)5g抱えの判断基準
  • ベースギルの使い方、エレメンタル構成の参入基準とグレ上げ、グレ3ボア構成の上げタイミング
  • 猛毒ミニオンの購入基準や、既存構成を崩しての降り方、配置
  • 各種異常のマナカーブや最終構成全般(特に、ゴールデン闘技場、保証なき市場など普段とまったくコストパフォーマンスが変わる中での購入基準)。など

 

視聴の際は常に「自分ならどうする?」を問う。配信者との違いが生じた場合、それが妥当な戦略かを実際の結果、および想定しうる分岐をもとに考えてみる。完璧な答えが出ることはまれだが、ぼーっと眺めるよりは上達に役立つだろうと信じている。

学ぶのはその環境で著しい結果を出しているプレイヤーで、おおむねランキング1ページ目の人であった。たまに「自分と性質の似たプレイヤーを見ろ」といった主張がなされるが、その必要はない。たとえ完璧にトレースできなくとも、その環境で勝ち馬となる戦術は積極的に学ぶ価値があるし、違うプレイヤーの考えを盗むことで引き出しが増える。

異なる戦術を取り入れると短期的には平均順位が下がることもあるが、長期的に自分になじませることで成果につながる。最終的に世界を目指すためには避けて通れない道だだろう。

 

メンタル:勝負強さは習得できる技術

とある方のロビレジェミラー実況で、私のことを「緊張するような場面でも力を十全に発揮できる」と評していただいた。個人のメンタルは一朝一夕に変わるものではないが、考えながらやっていけば長期的には強いマインドを作ることができると信じている。

 

楊海さんもそう言ってた。

ヒカルの碁」16巻より。気持ちのコントロールが上手くいかずにプロ試験合格を逃した伊角は、中国への武者修行中に楊海から教えを受けることで徐々に弱点を克服していく。

▼まったく関係のないオタク語り この中国棋院編は伊角の成長が克明に描かれた、作中でも屈指のストーリーだと思っている。いい年をした大人になってこの作品を読み返すと、子供のころとはまた異なる感動がある。ヒカル、塔矢、伊角たちの主人公グループはもとより、それを取り巻く大人たちもまた魅力的なものに思えるのだ。緒方十段、楊海さん、椿さんなどそれぞれの大人が、勝負の世界の中で自分なりの信念を持って輝いている様子は、子供のころにはいまいちピンとこなかったが同年代になってみるととても美しく感じられるものであった。本作品について「プロ試験までがピーク」みたいな評価も見受けられるが、プロ以降の展開は特にそういった大人たちの活躍が描かれることが多く、プロ試験までとはまた別の魅力を持ったストーリーではないか。

 

閑話休題。「勝負強さは習得できる技術だ」という話であった。

 

このメンタルの項目が最も重要で、時間をかけて書きたい。私がバトグラ、及びそれ以前のゲーム体験で少しずつ作ってきた考え方を紹介する。メンタルの在り方は十人十色であり、ここに記載した内容はかなり個人的な色が強いが、何かの参考になればうれしい。

一口にメンタルといえども、長期的な向上心の維持と、短期的な、主に試合中のパフォーマンス維持に分かれる。

①長期的な向上心の維持

原則は「勝つことではなく上手くなることを目指す」である。たとえ最適なプレイをしても運要素で負けることはあるし、逆に悪いプレイをしても勝てることはある。しかし長期的に勝ち続けるためには実力を培うことが欠かせないため、短期的な勝ち負けに翻弄されずに自分のプレイを振り返る姿勢が必要になる。

ただし、心がけだけでは何も変わらない。それを喚起する環境づくりやアクションを行うことが必要で、Hearthstone Deck trackerの表示はその代表的なものである。デフォルトでは以下のようなオーバーレイが出てくるだろう。

 

このうち、上達に不要なものや有害なものは消す。

  1. 左側に直近のレート収支が出るが、配信をするのでなければ必要ない。勝っていようと負けていようとすべきプレイは同じであるからだ。直近の戦績が見える状態にあると、勝っているから気が緩んだり、負けているから取り返そうとしてプレイの歪みを生む。
  2. 上側に出る勝率計算は、個人的には使っても良いと思っている。いらだちの原因になることもあるが、それ以上に敗因の分析に役に立つからだ。下位落ちした時などに単に当たり方が悪かったのか、それ以外(自分の盤面の弱さ・相手の強さ)が敗因であったのかを切り分けるためにあえて残している。ただし、それをやらずに確率で気分を害するのであれば消すのも一手である。
  3. 右側のミニオン一覧は残す。各グレード発見の「当たり」の枚数、ありうる最終構成をカウントするのに有益。気になったら確認する習慣をつけることで、知らず知らずのうちにカードプールについての全体感が養われるだろう。
  4. 左上のBAN表示は消している。残してもいいが、登場しない種族ではなく、登場する種族ベースで考えるのが個人的にはやりやすいと思っているため。

また、試合の合間は振り返りの時間に充てている。結果はだめだとしても、可能な限り良いプレイができていれば万々歳だし、逆であれば改善点を探るのが良い。特に月末はどうしても結果重視になりがちではあるが、気づいたそばからプロセス重視に切り替えていくことが長期的な上達のためには欠かせないだろう。

時には「当たり方が悪い」と評価せざるを得ない試合もあるだろう。それならそれでよいが、決して次の試合にフラストレーションを持ち越してはならない。コントロール不可能な要素を忘れ、改善できる要素に集中することが重要。

②短期的な精神安定性の獲得

主に運要素の下振れ、上振れに対して、プレイを乱されないようなメンタルを構築することを目指す。

バトグラには当たり方、酒場、ヒーロー、発見、対戦相手など多数の運要素があり、すべてが平均以上の試合などほとんどない。悪かった要素をあげつらって「自分は運が悪い」みたいな主張をすることは簡単だが、それは建設的な態度ではない。

下振れは普通に起こりうるものだと認識することが第一歩だ。トッププレイヤーの下位落ち率は20〜30%程度である。この場合、下位落ちが3回続いてレートを250くらい溶かす事象は2-3%程度の確率で起こるのだから、月200戦もやれば特にプレイがゆがんでいなくても1度や2度くらいはありうるものである。「ナイアガラはありうること」として捉え、過度にプレイを乱されないこと、仮に乱れているのを自覚したら切り上げることが重要である。

実際にやってみるとわかるが、この「乱れている自覚」が難しいところである。特にレートを大きく失うと取り戻したくなる衝動に駆られるはずだ。よくわかります。

ただし、そのあとすぐにプレイを続けてレートを取り戻せる確率は決して高くなく、むしろ大幅にレートを失うことも珍しくない。もしそのような経験をしてしまったのであれば、自分がどのようなきっかけでプレイが乱れ、その後どのようなことができなくなるかを振り返っておくことが再発防止につながるだろう。決して気持ちのいい作業ではないが、やる価値はある。

  • きっかけの例 当たり方、煽りエモート、酒場の下振れなど
  • それによる不調の例 順番ミス、雑な配置、過度に保守的あるいはリスキーなプレイ

この点は大いに個人差があるので、自分なりの兆候を見つけることが重要である。自分のプレイのゆがみがどのように発生するかを把握しておくことが、早いタイミングでプレイを切り上げ、大幅なレート損失を回避することにつながる。また、ロビレジェ等の中断が許されない場面においても、自分のメンタルの乱れに自覚的になることでいくらか対処の余地が生まれるだろう。

逆に、好調ならぶっ続けで回すのが良い。勝ち続けていたり、普段できない良いプレイができていることに気づいたら、食事も買い物も洗濯も後回しにして遊び続け、気づいた時には500くらい盛れることがしばしばある。(これは独身者の特権かもしれない。家族がいるひとは真似しないほうがいいかもです)

アミタスで1ターン目に殴られたときに

また、相手の非最適なプレイのせいで不利な状況に立たされることはよくある。代表的なのは「アミタスの思慮」異常で1ターン目から弱いミニオンを買う相手に被弾したり、「ノルガノンの秘密」異常にもかかわらずひたすら低グレードに居座る相手に15点ダメージを受けたりすることだ。

アミタスの思慮ノルガノンの秘密

腹立たしく感じることもあるだろうが、それによって自分のメンタルを乱されないことが大事である。たしかに非最適なプレイをされて、その相手とタイミング悪く戦闘した一戦は損失があるだろう。しかし、対面以外の相手がこのような非最適なプレイをして、そのプレイヤー自身及び対面者が共倒れすることもあるだろうし、8人で行うゲームである以上その頻度はずっと高いはずだ。自分より練度の低いプレイをする相手がいるからこそレートを盛れていると捉えれば、たまに被弾することくらいは笑って許せるかもしれない。

参考にした本

一連のマインドセットは全てを新たに作ったわけではなく、これまでのゲーム体験や日頃の情報収集などから得たものが多い。これまでフルに実践することはなかったが、今回のロビレジェ挑戦は求められる上達度合いが大きいため真面目にやる必要が生じた。主に参考になったのは以下の本である。

「ザ・メンタルゲーム」ジャレド・テンドラー

ポーカーをやっていた時に読んでいた本。ポーカーもメンタルが重要なゲームであり、特に運要素の変動に翻弄されることなくプレイを続け、そして長期的に向上心を保つことが重要なところはバトグラに似ている。学んだことは数多い。

「東大卒プロゲーマー」ときど

主に向上心を維持するためのマインドを学んだ。ウメハラさんはもとより、ときどさんもすっかりベテランゲーマーの域に入りましたね。最近の若手ゲーマーでいい人がいたら教えてください。

「上達の法則 効率のよい努力を科学する」岡本 浩一

物事の上達にどのようなプロセスがあり、どのような練習を積んでいくべきかの一般的なセオリーを解説する本。上級者のマインド、スランプ脱出の在り方が参考になった。

 

時間管理:寝ろ

ロビレジェ挑戦者の中では、社会人ということもありプレイ時間が少ない方である。ただし一般的には多い部類であろう。

まずは睡眠が重要である。睡眠時間を削ってプレイすることは極力避け、十分な睡眠を心掛けた。これは良きプレイのためにも、良き仕事(ひいては定時退社)のためにも第一である。

下記は自分を睡眠ガチ勢にした連載。すっかり長期連載になっているので、適当なところまで読めば十分だろう。私も最新号までは追い切れていない。

睡眠時間を確保したこともあり、繁忙期の9月は潤沢なプレイ時間を確保できなかった。それにより20位に終わったが、仮に寝ずにやっていたとしてこれより良い成果が出ていたかは疑問が残るし、バトグラ以外にも支障が及んだかもしれない。9月の順位は芳しくなかったが、必要な順位を得る取り組みをしたので悔いはない。

また、別のゲームにまとまった時間を割くことはかなり難しい、というか自分の場合無理であった。ただし、それを苦痛に感じることはなかった。元来一つのゲームを遊びつくせればよいという性分なのかもしれない。

 

特異性:高速道路の先の渋滞

普通のことを普通にやるのは、トッププレイヤーにとってスタートラインにすぎない。何か抜きんでたものがあると勝ちにつながる。

自分の場合は数学的な思考が最後の一押しとなってくれた。確率の評価、及び統計分析である。いずれも学術的に高度なことをしているわけではないが、計算の結果から戦略を見出すことに成功し、それがプレイに役立ったと自負している。

確率を判断基準にするプレイヤーは少ない印象だが、各グレード別のミニオンの出現率、発見で目当てのミニオンを引ける確率をざっくり把握することはプレイの役に立つと感じる。特に異常ごとの戦略を考えるのに役立ち、例えば「ノルガノン」、「大リーグ」、「酒場スペシャル」といった異常が酒場プールを変える中で、それぞれに応じたミニオンの出現率を求めることによってどのように戦略を変えるかの参考になった。長いことプレイすればどのみち直感として養われる面もあるだろうが、確率計算を通じて考えることでより早いうちにセオリーを獲得できる。

 

分析の一例。なにかの機会に発表しようと思いつつ、結局タイミングを逃した。

統計分析も重要な武器になった。統計サイトなどで平均順位などの数値が出ることがあるが、それがどの程度信頼に足るのか、「具体的には信頼区間はどの程度か?」「勝率と強さの間にバイアスは作用していないか?」などを考えることができ、データの本質を汲み取れたのが大きかったように思う。

これらによってレートが劇的に上がることは無く、レート15000のうちのせいぜい300程度を形作っているに過ぎない。ただし、強者ひしめく中ではその300が決め手となって、一歩抜きんでることができたと自負している。

もちろん他のトッププレイヤーについてもそれぞれ特異性がある。彼らの配信などを見ていると、例えば駆け引きの強さ、極端な独創性、分岐に対する大局観などなど「理屈はわかるが、まねできそうにない」ような強みが見受けられることがある。それもその人がこれまでに遊んできたゲームや他の生活の中で培われたものなのかもしれない。

これだけインターネットで情報が飛び交う中で、「一般論」めいた知識はトップ層にとって持っていて当たり前の情報になる。そのうえで何かしらの模倣しがたい能力があれば、それが抜きんでるきっかけになるのだと思う。

※ちなみにこのような現象は、対戦ゲーム全体で、また恐らくはそれ以外の競争でも起こっており、プロ棋士羽生善治さんが2006年に指摘しているところだ。

「ITとインターネットの進化によって将棋の世界に起きた最大の変化は、将棋が強くなるための高速道路が一気に敷かれたということです。でも高速道路を走り抜けた先では大渋滞が起きています」

梅田望夫ウェブ進化論」より、羽生善治氏の発言

 

この指摘からすでに17年経ち、このような傾向はますます強まっていると感じる。トップ層で勝ち続けるためには一般論をくまなく情報収集したうえで、容易に模倣できない強みを作るのが必要だと感じており、日々勝ち方を模索している。

 

あとがき:ロビレジェっていつも同じ人が出てるよね?

前にこんなことを書いた。

「バトグラの上手い日本人」と言われて、誰を思い浮かべるでしょう。

日本には多数の優れたプレイヤーがいます。ただし、そのほとんどは古参寄り、少なくとも一昨年までには頭角を現していた人ではないでしょうか。2022年からの1年半、新たなスターと呼べる人はこの界隈に現れたでしょうか。

今もこの状況に変わりはない。惜しいところまで到達する人はいるのだが、結局ふたを開けるとロビレジェに出場するのはいつもの面々がほとんどだ。日本だけでなく、海外でもこの傾向は強い。

これはこれでいい。今のトッププレイヤーはそれに足るだけの技量を持っていると思う。

ただ、新しい勢力が割って入り競争が盛り上がるのであれば素晴らしく思う。来年の競技シーンがどうなるかわからないが、今上手い人だけで権利を争うとしたら界隈は先細りする一方だ。ここに書いたことはきわめて個人的でどの程度役に立つのかわからないが、来年ロビレジェがあった場合に目指そうとしている人の参考になればありがたい。

また、自分は普段配信をしておらず、他のプレイヤーに比べ受け取るだけの人になってしまっている気がしたので、せめて何か発信しようと思ってこのような記事を書いた。

 

楽しかった?

なんやかんや書いたが、この3か月は非常に充実した期間であった。シリアスにプレイし続けるのは決して楽しいことばかりではなかったものの、今までにない成長ができ、一時的ながらアジア1位を獲得するなど努力に見合う成果を得られてうれしく思う。一方で、本大会で優勝したjeefをはじめ世界トップのプレイヤーとはまだ力量の差を感じており、もし機会があればリベンジしたいと考えている。

どうやら11/3・4のBlizzconで、バトルグラウンドの新たなニュースがあるようだ。E-Sports関連で良い知らせがあればと思う。